ミレニアル世代がトランプ支持に傾く深層構造――アメリカの変貌と未来を読み解く新視点

変わりゆく社会とともに、アメリカの政治地図が劇的に再編されつつあります。

とりわけ、かつてはリベラルの牙城と目されていたはずのミレニアル世代(1981年~2006年生まれ)が、予想を裏切るようにドナルド・トランプに支持を寄せている現象――一体その深層には何が潜んでいるのでしょうか。

どこにでも語られがちな「現状不満」や「メディアの影響」といった表層的な説明だけでは到底捉えきれない、複雑で矛盾に満ちた心情。

この記事では、実体験、具体例、思考の揺らぎを織り交ぜながら、多面的かつ詳細にミレニアル世代のトランプ支持の背景を掘り下げます。

そして、アメリカにとどまらず、グローバルな政治観の転換や日本社会への波及をも視野に入れて、新たな時代の潮流を体感的に読み解いていきます。

その先に浮かび上がるのは、従来とはまったく別のアメリカの姿です。

何が世代の価値観を根本から変えたのか。渦中のリアルを、あなたとともに検証してみましょう。

経済的苦境と不確実性――「個」の不満が社会全体の波になるまで

ミレニアル世代がトランプを選ぶ理由を単純な「反体制」や「保守回帰」と決めつけてしまうと、肝心の“肌感覚”が抜け落ちてしまいます。

実際、私は2022年の春から1年間、カリフォルニア州のパロアルトで20代~30代の若者と日常的に交わる環境に身を置きました。

彼らが口々に漏らすのは、景気指標がどうであれ、自分の生活基盤にまつわる「長く続く不安」です。

特に目立った声をいくつかご紹介しましょう。

「大学は卒業したけど、ローンの返済猶予が切れて利子も膨らむ一方。マクドナルドで働いて月の半分以上を借金の支払いに充ててる」
「シリコンバレーでプログラマーになれば安泰なんて幻想すぎる。友人は去年Metaからリストラされ、その後ずっとフードデリバリーやってる」
「マンハッタンで一人暮らし?あり得ない。家賃が高騰しててルームシェアすらままならない」
このような切実な現実に晒される中、既存のエリート政治や「格差是正」の美辞麗句は空疎に響くことも多いのです。

要約すれば、次のポイントが複雑に絡み合っています。

・圧倒的な学費負担。大学進学率が上がった分だけローン地獄も拡大し、「教育が人生の安定を保証してくれる」という古い社会契約がもはや成立しません。

・コロナ禍直後からシリコンバレーやウォール街で進行した大規模リストラ。就労競争は激化し、「コネ」と「運」が重要になりました。

・都市部での生活費高騰と給与停滞。実は全米の最低賃金の固定化も手伝って、豊かな都市でも“ワーキングプア”が珍しくありません。

・住宅ローン金利の上昇、医療保険制度の不透明さによる将来設計不能リスク。

こうした積み重ねが、「自分たちだけがいつまでも損を背負い続けている」という生々しい感覚を生み出しています。

この苛立ちの受け皿が、従来型の穏健リベラルや現職政府への信頼喪失へ直結しているのです。

また、人によっては「自分の苦しみは社会のせいではない。だけど政府が何も変えてくれないこと自体が最大の裏切りだ」と憤る声もありました。

この現実と理想の裂け目のなかで、トランプは「現状をぶち壊すパワーキャラクター」として突如再評価される奇妙な時代に突入しているのです。

民主党への幻滅――新しい「エネルギー」の行き場を探して

政治的志向の転換には、失望と裏切りの記憶が大きなモチベーションとなっています。

たとえば米国では、オバマ政権時代の「Yes We Can!」に熱狂していた世代と、その熱狂の後に続く“期待外れ”を味わった下の世代。

私が知る範囲では、2015年以降に高校・大学を卒業した若い友人たちは、民主党の理想(多様性や持続可能性へのコミット)について「結局ただのパフォーマンスじゃないか」というドライな見方を持つようになっていました。

エネルギーのはけ口は、社会主義的な大衆運動を経て、いまや逆方向へ振れている実感があります。

SNSの“可視化された議論空間”は本音と建前を暴露し、かつては隠れていた分断線がむき出しになる場所でもあります。

そこで象徴的な話題は、「なんで自分たちはエスタブリッシュメント(既成権力)に従わなきゃならないのか?」というもの。

表層的には「フェイクニュース」や「政治不信」が論じられがちですが、実際にはもっと無力感・見捨てられ感が根底にあります。

占拠ウォール街運動(2011年)やブラック・ライブズ・マター(2020年)の盛り上がりを、どこか冷めた目線で観察する「ポスト運動世代」。

その中には「結局改善せず、声をあげたリーダーたちが利益を得ただけだった」というシニカルな気分が蔓延していました。

この分断された目線は民主党への批判につながり、トランプ支持というラディカルな選択肢をも「現状からの脱却案」として受け入れやすくしたのです。

さらに重要な点は、「失望したからこその挑戦」意識。後戻りのきかない現実の中で、最もラディカルかつ即効性が期待できる手段としてトランプを選ぼうとするダイナミズムが働いています。

実際、2022年夏のタイムズスクエアで出会った27歳の起業家(IT系)はこう語っていました。

「前の選挙までは友人みんな“バーニー(サンダース)最高!”って感じだったけど、今は正直何に賭けても現状が激変することはないって思う。それなら一番面白そうな馬に乗るよ」

この「冷笑と決断」のミックスこそ、いまの世代の熱量の所在を如実に物語っているのではないでしょうか。

戦略的現実主義の台頭――「アメリカの夢」の再定義に迫る

国際政治観に対する見方もまた、ミレニアル世代の間で大きく変化しています。

従来アメリカは、第二次大戦後「世界の警察」「自由の守護者」など、グローバルリーダーシップの矜持を持っていました。

子供の頃から米軍基地の近く(例えば横須賀や沖縄)で生活した身から見ると、「アメリカが国際秩序を守っている」という価値観は半ば無条件に刷り込まれていたものです。

しかし、ロシアや中国の台頭、イラク・アフガニスタンでの長期苦戦、そしてCOVID-19による自国最優先主義の復権……こうした現実を身近に見てきた若い世代は「そもそもグローバル化って、本当に自分たちのためになるのか?」と根本的な懐疑を抱くようになりました。

特に象徴的なのは、2023年夏にサンディエゴで開催されたシンクタンク主催の若者フォーラムでの意見です。

「アメリカがウクライナやイスラエルに予算を使いすぎじゃない?その金が回れば自国のインフラ直せるのに」
「アジアやヨーロッパを守るっていうけど、もう他国の問題を背負えるほど余裕はないよ」

このようなリアルな不安が、従来型の国際協調路線よりも「内政重視型現実主義」に傾く根本的要因なのでしょう。

文化的価値観にしても、グローバリズムや多様性重視から「個人選択の自由」と「自己責任主義」へと、モチベーションが微妙にシフトしています。

それは保守的なナショナリズムというよりも、むしろ「自国を守れなければ何も守れない」という暗黙のリアリズムの台頭に近い感覚です。

それがトランプ支持の一枚岩とは言い難いにせよ、既存の「アメリカらしさ」とは明確に一線を画すものとなってきています。

記憶の断絶と「分断の常態化」――ポスト9・11世代の思考回路

歴史的経験の違いもまた、ミレニアル世代の支持構造に強く影響しています。

たとえば、オバマ時代の熱狂(2008年の全米を覆った変革ムード)をリアルタイムで経験していない層は、「過去の理想の崩壊」を客観視できます。

彼らのスタート地点は9・11以降の緊張・対立が“当たり前”になっている世界です。

悲しいことですが、戦争・紛争・経済危機やパンデミックなど「安定の不在」に慣れてしまった発想こそ、現代の若者の平常感覚なのかもしれません。

メディア環境においても、インターネットとSNSネイティブ世代は情報の“断片化”や“二極化”をリアルタイムで目の当たりにしています。

例えば2023年冬、ニューヨーク州ブルックリンのコワーキングスペースにいた社会学専攻の大学院生との会話がありました。

「昔のような“大きな物語”(例えば『全員が中流階級を目指せる』神話)はSNSのタイムラインにはもう流れてこない。自分の見たいニュースだけが流れてきて、それが全部だと思い込む人が多くなった」
この断片的な現実認識が、強烈な違和感と新しい居心地の悪さを生んでいます。

言い換えれば、「なぜこれほどまでに世代間・階層間・コミュニティ間で分断が拡大したのか?」という素朴な問いにも、“記憶とメディアの断裂”が関係していると感じました。

トランプ支持層の小規模な再編も、こういった「分断の常態化」に適応した結果なのです。

大きな流れに乗るのではなく、小さなグループごとに異なる現実を生き、一部が集団として政治的に可視化されていくというプロセス。

それが社会的に危険な分断を生むこともありますが、同時に「選択肢が増えている」とも言えるかもしれません。

日米関係・日本社会への波及――漂流するアメリカが日本に及ぼすリアルな衝撃

この「内向きリアリズム」の拡大は、日本社会にも無視できないほどの影響を及ぼしています。

私が2023年秋に大阪の某大学で開催された国際政治セミナーに参加したとき、極めて印象的な議論が交わされていました。

・安保体制の見直し圧。「在日米軍の実質的な縮小」にどう向き合うか、大学生や自衛隊関係者の間でも現実的な議論が生まれはじめています。

・米国の投資動向変化による、日本製造業やITスタートアップへの直接的な影響。保護主義的傾向が顕著になれば日系企業の海外展開戦略そのものが揺さぶられるリスク。

・「アライアンス」のあり方再考を迫るSNS拡散型外交――若い人ほど「従来の友好国」枠組みでは語れない複数の情報源を使いこなす傾向が強いです。

こうした背景から、日本の安全保障政策や経済連携は新たな最適解が求められています。

「アメリカ第一」「内政重視」「協調のたちすくみ」というキーワードは、米国の世代交代と共に、確実に“日本の意識”も揺り動かしています。

たとえば、これまで定番だった「日米関係の安定神話」も、若い世代のビジネスパーソンや国際派学生の間で少しずつ疑問視されるようになっています。

この数年で急速に進んだアメリカ国内の政治意識変化、それはもはや「他人事」では片付けられません。

未来のアメリカと世界――世代交代は何を生み出すのか

ミレニアル世代のトランプ支持は、一過性のムーブメントで終わるのか。

それとも、新しい「アメリカの常態」「世界の仕組み」へと着実に変質していく道筋なのか――。

個人的な予兆として、2024年の大統領選挙以降十年単位で、以下のような動きが加速するとの予感があります。

・外交政策:多国間連携の希薄化、伝統的な“同盟重視”より、自国メリットや即効性重視へシフト。

・移民政策:流入抑制と「壁」政策の復権傾向。トランプ流レトリックの二番煎じすら現実味を持つ。

・軍事介入:安易な派兵・人道介入のブレーキ強化。国内基盤強化・防衛力重視の声がさらに強まる。

・経済/環境政策:「サステナブル」より「成長・競争・自立」に重き。気候変動対策も「コスト最小限主義」へ。

繰り返しになりますが、これら全てが「トランプ個人の思想」ではなく「新しい世代の共有している現実感覚」から生じている点が最大のポイントです。

そのダイナミクスは、アメリカだけでなく、世界中の民主主義・グローバリズム・同盟国家構造全体を根本から再編成していくことでしょう。

そして日本を含めた世界の国々は、その揺れ戻しのインパクトにどう対応するか、自らのリスク感覚・機動力・発想の柔軟性がますます問われる時代に突入しています。

時代は流動的です。今は極端な支持のように見えても、その中にこそ「新しいリアル」が息づいているのです。

「ミレニアル世代がなぜトランプを支持するのか?」という問いは、実は「社会と世界はいかに変わろうとしているか?」の写し鏡です。

生々しい生活感、裏切りへの反発、分断のもたらす痛みと現実主義――。

この動きが、今後10年、20年先にどんな形で世界史に刻まれていくのか、私たち一人ひとりにも選択が求められます。

アメリカの世代交代は、すなわち“時代の転換点”なのです。

ここから先、どんな歴史が書き加えられるのでしょうか。

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